東京地方裁判所 昭和40年(ワ)7213号 判決 1968年8月06日
原告
有限会社志村電気商会
原告
コーワ製作所こと
岡本弼弘
右両名代理人
坂本昭治
被告
新聞輸送株式会社
被告
藤井清
右両名代理人
富永進
被告
日生建材工業有限会社
被告
荻野良治
右両名代理人
大塚功男
主文
一、被告日生建材工業有限会社および被告荻野良治は連帯して、原告有限会社志村電気商会に対し金六八四、一〇七円およびこれに対する昭和三九年一二月九日から完済に至るまで年五分の割合による金員、原告岡本弼弘に対し金八一一、七二〇円およびこれに対する昭和三九年一二月一五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。
二、原告らの被告日生建材工業有限会社および被告荻野良治に対するその余の請求ならびに被告新聞輸送株式会社および被告藤井清に対する請求は、いずれもこれを棄却する。
三、訴訟費用は、原告らと被告日生建材工業有限会社および被告荻野良治との間においては、原告らに生じた費用の二分の一を右被告両名の連帯負担とし、その余は各自の負担とし、原告らと被告新聞輸送株式会社および被告藤井清との間においては全部原告らの連帯負担とする。
四、この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一、当事者の求める裁判
一、原告ら
「被告らは各自、原告有限会社志村電気商会(以下原告会社と略称)に対し金六九七、八五五円およびこれに対する昭和三九年一二月九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告岡本弼弘に対し金八八七、五六〇円およびこれに対する昭和三九年一二月一五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。」
との判決ならびに仮執行の宣言
二、被告新聞輸送株式会社(以下、被告新輸と略称)、同藤井清、同日生建材工業有限会社(以下、被告日生と略称)
「原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。」
との判決
三、被告荻野良治
請求棄却の判決
第二、請求原因
一、(事故の発生)
昭和三九年一二月八日午前四時一五分頃、被告藤井運転のトラック(以下甲車と略称)および被告荻野運転のトラック(以下乙車と略称)は、共に中仙道を都心に向つて進行中、東京都板橋区蓮沼町八番地先路上で接触し、原告らの店舗に突込み、建物を破壊するとともに、原告らの商品ならびに製作機械を破損した。
二、(被告らの責任)
(一) 被告藤井および被告荻野には、速度違反および運転者としての注意義務に違反した過失がある。殊に、被告荻野は、前方注視義務に違反し、前方を進行中の甲車を認めながら漫然と運転した過失により、甲車に接触した。
(二) 事故当時、被告藤井は新聞を輸送する運送会社である被告新輸にトラック運転手として、被告新輸の業務に従事していたものである。
(三) 事故当時、被告荻野はブロックの製造販売を業とする被告日生の輸送トラック運転手として、被告日生の業務に従事していたものである。
三、(損害)
原告らは前記事故により、次の損害を蒙つた。(内訳は別紙記載のとおり)。
(一) 原告会社
1 施設破損補修費
金二一五、六七〇円
2 商品破損費 金三九七、三三五円
3 営業補償費 金八四、八五〇円
総計 金六九七、八五五円
(二) 原告岡本
1 施設補修ならびに備品破損費
金一六二、七二〇円
2 建物修繕費 金六二四、八四〇円
3 慰藉料 金一〇〇、〇〇〇円
総計 金八八七、五六〇円
四、(結論)
よつて、被告藤井、同荻野に対しては民法第七〇九条に基き、被告新輸、同日生に対しては同法第七一五条第一項に基き、被告四名連帯して、原告会社に対し金六九七、八五五円およびこれに対する不法行為の日の翌日である昭和三九年一二月九日から民法所定年五分の割合による遅延損害金を、原告岡本に対し金八八七、五六〇円およびこれに対する不法行為の後である昭和三九年一二月一五日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、支払うよう求める。
第三、請求原因に対する被告新輸、同藤井の答弁
一、請求原因第一項は認める。
二、請求原因第二項のうち、被告藤井が被告新輸の業務に従事していたことは認めるが、被告藤井の過失は否認する。
すなわち、本件事故は、専ら被告荻野の前方注視義務違反によつて生じたものである。同被告は時速約五〇粁で乙車を運転中、約一五米位前方を左側歩道に寄つて右側方向指示灯を点滅しながら徐行している甲車を認めたのに、自動車運転者として甲車の動向の注視しながら徐行する等の手段をとりその安全を確認した上で進行すべき注意義務を怠り、甲車が転回するものと速断し、ハンドルを左に切つてその地点を通過しようとして進行を続けたため、先行車である甲車が転回することなく時速三〇粁で進行を継続しているのに気づき、初めて追突の危険を感じて急制動の措置をとつたが間に合わず、甲車に追突し、追突したままの状態で甲車と共に歩道に乗り上げ、更に原告会社の店舗に飛び込んだものである。
三、請求原因第三項の損害は不知。
四、請求原因第四項は争う。
第四、請求原因に対する被告日生の答弁
一、請求原因第一項は不知。
二、請求原因第二項のうち、被告荻野の過失は不知、被告日生はブロックの製造販売業であることは認めるが、被告荻野が被告日生の業務に従事していた点は否認する。すなわち、被告日生は、被告荻野を雇庸してブロック運送をなさしめているのではなく、被告荻野は乙車を所有し自己の計算において運送業を営むものであること。ただ、乙車が税金等の関係から自家用ナンバーであるため、被告日生は名義を貸与し、相当の運賃を支払つて同被告の生産するブロックの運送を依頼していたに過ぎず、名義料を徴したこともなく、援助を与えたこともない。
三、請求原因第三項は不知。
四、請求原因第四項は争う。
第三、請求原因に対する被告荻野の答弁
一、請求原因第一項は認める。
二、請求原因第二項のうち、被告荻野の過失は認める。
三、請求原因第三項は不知。
四、請求原因第四項は争う。
第六、証拠<略>
理由
一、(事故の発生)
被告日生を除く被告らと原告らとの間においては、請求原因第一項の事実は争いがなく、被告日生との関係では、<証拠>によつて、請求原因第一項の事実を認めることができる。
二、(被告らの責任)
(一) 被告藤井および同荻野の過失について
被告荻野は同被告の過失を争わないが、被告日生がこれを争うので同被告との関係で判断することとし、併せて被告藤井の過失について同被告、被告新輸との関係で判断する。
<証拠>によれば、本件事故現場の道路はコンクリート舗装の巾員16.6米の車道の両側にそれぞれ4.2米の歩道があり中央には都電の軌道がある道路であつて、被告藤井は甲車を運転して、時速約三〇粁で埼玉方面から巣鴨方面へ向つて進行して来たが、転回しようとして、車道の左側により右の方向指示燈を停止しようとしたところ、被告荻野が乙車を時速約五〇粁で運転して、甲車の前記合図を見たのであるが、かかる場合自動車運転者としては先行の甲車が直ちに転回するか、なお進行した上で転回するか、甲車の動向に注意すべき義務があつたにも拘らず、直ちに右に転回するものと軽信して、甲車の動向に注意せず、甲車の左側を通り抜けようとしてハンドルを左へ切つたところ、甲車がなお転回しなかつたため衝突の危険を感じて急制動の措置をとつたが間に合わず甲車の後部右側に乙車の前部左側で追突し、追突した状態で甲車もろとも歩道に乗り上げ、原告会社の店舗に飛び込んだこと、しかも被告荻野は乙車の制動装置に欠陥があり制動の効果が小さいことも事故前日から知りながら乙車を時速約五〇粁で運転していたことが認められ、被告藤井は転回のため後方を確認すべく停車しようとした際突然追突されたものであることが認められ、<証拠>中、右認定に反する部分は前掲各証拠に照らし信用し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。右認定事実によれば、本件事故は、被告荻野の一方的過失というべき、被告藤井の過失は本件全証拠によるも認められない。
したがつて、被告藤井および被告新輸は、その余の点について判断するまでもなく、本件事故による損害賠償責任はない。
(一) 被告日生の責任について
<証拠>によれば、乙車は被告荻野の所有であるけれども、いわゆる白ナンバーの車輛であつて被告荻野としては陸運局からの追及を逃れる目的で被告日生としては宣伝の目的で、被告日生の名称「日生建材」の文字を乙車の荷台に書き入れていたことが認められ、<証拠>によれば、被告荻野は訴外興和炭鉱の千島満名義で訴外関東いすずから乙車を月賦で購入して同車を使用して運送業をしていたところ右千島との間にいさかいを生じ、被告日生の小島から同被告へ来て働くように云われて、同被告の専属の運送をするようになると共に乙車の名義も被告日生としたこと、被告日生と被告荻野との関係は形式的には運送契約であるが、乙車の修理代金は被告日生が直接修理屋に支払い、運賃から修理代が差し引かれていたこと、被告荻野は被告日生のために無償で被告日生の小型貨物自動車「いすずエルフ」を運転してブロックを運ぶことが一日平均一回あつたことが認められる。右認定事実に反する証拠は措信できず、他にこれを覆すに足る証拠はない。
以上のように、被告日生は無免許者たる被告荻野に対して免許営業たる運送業を営ませるために車輛名義および営業名義を貸与しているのみならず、被告日生は被告荻野に対し前記のように種々の便宜を図り、これに対して被告荻野は被告日生に対し「エルフ」運転の労務を提供していたことでありかかる関係から、被告日生は被告荻野の民法第七一五条第一項の「使用者」であると解するのが相当である。
次に、<証拠>によれば、同被告は前記のように被告日生の専属として運送業をしていたこと、しかも事故当時は約七屯の積荷を運送していたことが認められる。したがつて、事故当時、被告荻野は被告日生の業務に従事していたものと認められ、被告日生は被告荻野の使用者として、本件事故による損害賠償責任を負わなければならない。
三、(損害)
(一) 原告会社
<証拠>によれば、(1)「施設破損補修費」は、当初の見積りよりシャッター補修費が一〇、〇〇〇円多くかかり、原告会社の主張より一〇、〇〇〇円多い合計二二二五、六七〇円であることが認められ、(2)「商品破損費」は、原告会社主張通り三九七、三三五円であることが認められ、(3)「営業補償費」は、原告会社の主張どおり一日平均の売上高の減少は二八二、八三五円であることが認められるが、あら利益の割合は前年度は21.6パーセントであつたことが認められ、原告主張の三〇パーセントの利益があつたものとは認められず、又事故のあつた年度も前年度以上の割合の利益があつたことの立証がないので、前年度と同率の利益率により計算するのが妥当であり、これによると七日間の営業利益の減少は金六一、一〇二円となる。そして、以上(1)ないし(3)の合計は六八四、一〇七円である。以上(1)ないし(3)は、同一事故に基く同一訴訟物であると解するのが相当であるから、総額において原告会社の請求額の範囲内である右六八四、一〇七円について原告会社の請求を認容することとする。
(二) 原告岡本
<証拠>によれば、原告岡本の(1)「施設補修ならびに備品破損費」は原告の主張どおり一六二、七二〇円であることが認められ、<証拠>によれば、(2)「建物修繕費」は当初の予定より日除工事が加わり、二五、〇〇〇円多くかかつたが端数を切り下げ、合計六四九、〇〇〇円の費用であることが認められる。(3)「慰藉料」については一般に財産侵害においては、財産的損害の賠償によつて精神的苦痛も同時に慰藉されるのであつて、被害者にとつて特別の主観的・精神的価値の存するものが侵害された場合、或いは、加害方法が著しく反道徳的である等被害者に著しい精神的な苦痛を感ぜしめる状況のもとで加害行為が行なわれた場合には例外的に財産的損害の賠償の他に慰藉料が認められるのであるが、原告岡本の主張は、店舗と商品の損害を受け、事業に支障を来たし、深夜の事故で精神的衝撃を受けたというに止まり、慰藉料を必要とする右の如き事実についての主張立証はない。したがつて、慰藉料の請求は認められない。
ところで、原告岡本の(1)ないし(3)の請求も、同一事故に基く同一訴訟物であると解するのが相当であるから、総額において同原告の請求額の範囲内である(1)(2)の認定金額の合計八一一、七二〇円について同原告の請求を認容する。
四、(結論)
よつて、原告らの請求中、原告会社の被告日生および被告荻野に対する金六八四、一〇七円およびこれに対する事故発生の翌日である昭和三九年一二月九日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める部分ならびに原告岡本の被告日生および被告荻野に対する金八一一、七二〇円およびこれに対する事故発生の後である昭和三九年一二月一五日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める部分は正当であるからこれを認容し、被告日生および被告荻野に対するその余の請求ならびに被告新輸および被告藤井に対する請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を仮執行宜言については同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。(篠田省二)
(一) 原告有限会社志村電気商会の損害金
1、施設破損補修費
(1) シャッター補修費(日本文化シャッターK・K) 二五、四〇〇円
(2) ナショナルコーナー修理費(東京電装K・K) 一二二、二七〇円
<中略>
合計 二一五、六七〇円
2、商品破損費
(1) ストーブ三菱RN―六〇五
三、九五〇円
(2) 同 RN―三〇一
二、八〇〇円
<中略>
合計 三九七、三三五円
3、営業補償費 七月分
前年度昭和三八年一二月八日より同月一四日までの売上金四三七、二四八円一日平均金六二、四六四円であつたところ本件事故の日たる昭和三九年一二月八日より店舗修理中七日間は一日平均金二二、〇五九円であつたので、一日平均の差額は金四〇、四〇五円でありこれが七日間合計二八二、八三五円、前年度と比較し売上が低下したゝめその利益を三〇パーセントとし、金八四、八五〇円の営業上の損害を蒙つたものである。
(二) 原告岡本弼弘の損害金
1、施設補修並びに備品破損費
(1) 一〇型鋳造機破損修理
五二、六五〇円
(2) 土管及び機械取付基礎工事
三、五六〇円
<中略>
合計 一六二、七二〇円
2、建物修繕費
訴外森工務店に支払つた金額
六二四、八四〇円
3、慰藉料
原告は家族をはじめ本件事故後二、三ケ月はトラックの大きな音を聞くだけで又家に飛び込みはしないかと夜中に寝ていても急に目が覚めるようなノイローゼに陥り、その精神的苦痛と年の暮も迫り一年中一番利益を上げるべき時に商品を沢山買い込み準備していた時に本件事故に陥り、とたんに資金の回転に苦しみ方々融資を仰いで回り、その精神的苦痛は決して金銭で代えるものではないがその慰藉料として金一〇〇、〇〇〇円也。